【2705】大戸屋TOB 敵対的買収の行く末

個別株式

店内調理のポリシーを貫き、コロワイドと徹底抗戦の道を選んだ大戸屋。それぞれの戦い方、主張、今後の展開について記載した。時系列については少々長いので、時間の無い人は飛ばしてもいいかもです。

大戸屋TOBの概要

公開買付者:株式会社コロワイド

買付け期間:2020/7/10 ~ 2020/8/25 まで(30営業日)

買付価格 :1株当たり 3,081円

買付け予定数:下限 1,872,392株 (25.84%) 上限 2,330,000株(32.16%)

現時点でのコロワイド持ち分は1,387,900株 (19.16%)で筆頭株主となっており、上限でTOBが成立した場合 3,717,900株(51.30%)となり、過半数を保有する事となるため取締役の選任が可能となる。

時系列

大戸屋TOBに関する一連の出来事を時系列順にまとめた。

①4/14 大戸屋に対する株主提案

提案内容は、コロワイド役員2名、大戸屋HD役員2名、社外取締役8名の計12名を大戸屋取締役に選任する事。

同時に、見込めるシナジーについての5点の記載に加え、株主提案の可決を前提とした株主優待の拡充(コロワイドと同水準程度までの引上げ)の予定があるとの記載があった。

・仕入条件の統一によるコスト低減
・セントラルキッチンの活用
・物流網の共通化によるコスト低減
・新店立地・業態転換候補の共有化
・ノウハウの結集

②5/25 株主提案に対する反対意見及び株主優待拡充

内容は、大戸屋HDが選んだ取締役候補者と株主提案で選ばれている取締役候補者には重複が有り、重複している取締役候補者は株主提案に係る取締役候補者となることについて認めないというもの。 なお重複候補者とは、代表取締役社長窪田健一、取締役山本匡哉、社外取締役三森教雄、社外取締役池田純、社外取締役戸川信義 の5名。

反対の理由:コロワイドは19.1%しか保有していないにもかかわらず、取締役会の支配した後子会社化を目論んでおり、提案が可決されると、セントラルキッチンの利用等コスト削減に偏った、コロワイドのみの利益となる手段がとられ、大戸屋の経営理念である ❝美味しくかつ健康に資する料理を提供する❞ が蔑ろにされ、企業価値を毀損し、株主が不利益を被る恐れが高いため。

・株主優待拡充

従来は年1回だったが年2回となり、実質2倍となった。

保有株数優待内容  
100株以上2500円相当のお食事券 5000円相当のお食事券
500株以上6500円相当のお食事券13000円相当のお食事券
1000株以上13000円相当のお食事券 26000円相当のお食事券

③5/26 反対意見に関するコロワイド側の見解

・コスト削減に偏重し、セントラルキッチンに依存した運営への移行について、仕入価格の上昇を抑制しながら、『大戸屋』の強みである品質や店内調理の良さを維持しつつ、店舗作業の負担軽減を図ることを計画し、仕込作業の集約もしくは保存可能食材の内製化を目的としているため、調理は当然店内厨房で行われるとの事。品質・鮮度の低下といった誤った報道がなされているとのこと。

・コロワイドが買収したカッパ・クリエイトに関して、粗利率の低下は物流費等の計上科目を販管費から売上原価に変更したことが原因で、収益性は悪化していないと反論。


④6/5 大戸屋FC加盟店による株主提案反対意見表明

株主提案が承認された場合、店内調理により「美味しい」「健康」「安全/安心」な料理を提供するというブランド価値・企業価値が毀損される可能性があるとし、FC加盟店の8割以上が反対意見を表明した。


⑤6/29 コロワイドの議決権行使について

コロワイドは第3号議案(コロワイド提案)において、第1号議案(取締役選任)と重複していない7名のみに賛成として議決権を行使した。

しかし、コロワイド側が株主総会に参加したものの賛成の意思表示(拍手)を行わなかったため、コロワイドの議決権はいずれの議案にも含めないものとし、第3号議案は否決された。


⑥6/30 議決権行使について(コロワイド側の言い分)

重複候補者について大戸屋側にしたところ、第1号に反対し第3号に賛成した場合は、重複候補者についても賛成票があったものと取り扱う旨の回答がなされたため、コロワイドは第一号に反対・第3号に賛成として、書面で議決権を行使した。

大戸屋株主総会に出席したコロワイド社員は酸性の意思表示(拍手)を行ったとしているが、コロワイドからの異議は無し。


⑦7/9 TOB開始

TOBが開始された。条件等については上の概要もしくはコチラを参照されたい。


⑧7/17 TOBに対する大戸屋従業員の緊急声明(反対意見

株主総会では、85%の株主から「店内調理」の方針が支持され、現経営陣が選任され、株主提案は否決された。にも関わらずTOBが実施され、驚きを隠せないとのこと。

大戸屋株主は本TOBに応募しない事、コロワイド側取締役候補者は辞退せよ、以上の2点を反対意見として表明してほしいと、従業員一同が、取締役会に要請を行った。


⑨7/20 TOB反対意見表明

株主総会で示された株主の意思に反してTOBが強行されたことを理由に、反対意見が表明された。

内容は、大戸屋株主はTOB応募を非推奨とするもの

正式に反対意見が表明されたことにより、敵対的TOBとなった。時系列を追って頂ければわかるが、今回、通常では見かけない、従業員やFC加盟店による反対意見表明が行われていた事から、敵対的TOBとなることはほぼ確定的であった。

コロワイド側の主張にも有った様に、客観的に判断して大戸屋の議決権行使の設計は複雑であった上、書面で議決権を行使したにも関わらず株主総会での拍手が無かったから議決権は行使されないといった事、従業員やFC加盟店による声明の発表など通常は起こりえないような事柄が多数生じている事から、その対抗方法に少々稚拙さを覚えた。

今後の展開

TOB発表の翌日には買い付け価格である3,081円を超えた値段で取引が成立しており、市場での注目度が高いと思われる本件。敵対的TOBと聞くと、直近ではユニゾホールディングスの事例を思い浮かべられる方も多いと思うが、必ずしも買付価格が引き上げられるとは限らないため慎重に判断していただきたい。

ユニゾの場合は不動産の多額な含み益が有り、当初のTOB価格はPBR1を割っていたため、更に高値で購入しても利益がでる状況だった他、全株買付けにより上場廃止を予定されていた。

しかし今回は、PBRは6倍を超えており、TOB成立後も上場継続(51%保有に留まる)のため、買付価格引上げの見込みも薄く、経営陣同士の対立が根深くシナジー効果もあまり期待できない。そのため、下落方向に向かう可能性が高いと考えられる。

もしどこかがホワイトナイトを引き受ければ、買付価格引き上げは有るが、これ以上の高値で引き受ける企業は少ないと思われる。

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